年末になるとニュースで必ず目にする「今年の漢字」。清水寺の大きな和紙に住職が一字を書き上げる光景は、すっかり日本の季節の風物詩になりました。ただ、「どうやって選ばれているのか」、「誰が決めているのか」、「過去にはどんな漢字が選ばれてきたのか」までは意外と知られていません。この記事では、「今年の漢字」の仕組みや由来、歴代の漢字から見える世相の移り変わりまでを、流れが分かるようにまとめて紹介していきます。
もくじ
「今年の漢字」とは何か
「今年の漢字」は、その年の世相を漢字一字で表そうという企画で、1995年に始まりました。世の中の出来事や空気感を、多くの人の投票で「今年らしい一字」に凝縮する試みで、単なるランキングではなく、その年を振り返るシンボルのような役割を担っています。選ばれた漢字は、ニュースやワイドショー、学校の授業や企業研修などでも話題になり、「今年ってこんな年だったな」と振り返るきっかけを与えてくれます。今では年末の定番行事として広く浸透し、風物詩として定着していきました。
誰が主催している？「漢検」との関係
この企画を主催しているのは、いわゆる「漢検」で知られる公益財団法人日本漢字能力検定協会です。同協会は、12月12日を「漢字の日」と定め、この日に合わせて毎年「今年の漢字」を発表しています。協会の本部は京都にあり、漢字文化の普及や教育活動の一環として、年末の漢字イベントを続けてきました。検定のイメージが強い団体ですが、街の応募箱設置や漢字ミュージアムの運営など、漢字を楽しむためのさまざまな企画を行っており、その象徴的な取り組みのひとつが「今年の漢字」というわけです。
どうやって選ばれる？
「今年の漢字」は、特定の有識者が密室で決めているわけではなく、全国からの応募を集計して最も多かった一字が選ばれます。応募方法は、特設サイトからのWeb応募、はがき、全国の書店や図書館、漢字ミュージアムなどに置かれた応募箱などがあり、誰でも無料で参加できます。応募する際は「漢字一字」と「その理由」をセットで書くことが求められ、その年に印象に残った出来事やニュース、個人の実感が反映される仕組みです。集まった何万通もの応募の中から、単純な票数だけでなく、理由の傾向も読み取りながら世相の一字が導き出されます。
清水寺での発表までの流れ
応募期間が終わると、主催者が票を集計し、上位20位までの漢字を「ランキング」として整理します。そのうえで、最も票を集めた第1位の漢字が、その年の「今年の漢字」として正式に発表されます。発表当日は、京都・清水寺の舞台に巨大な和紙と墨が用意され、貫主が特大の筆で選ばれた一字を揮毫します。このパフォーマンスはテレビ中継やネット配信も行われ、完成した書は一時的に寺や漢字ミュージアムで一般公開されます。票の集計という静かな作業と、清水の舞台でのダイナミックな揮毫がセットになって、一つのイベントを形作っているのが特徴です。
いつどこで行われる？
発表は毎年12月12日前後に行われます。これは、12（いい）・12（じ）の語呂合わせから「漢字の日」と定められているからです。会場が京都の清水寺に固定されているのは、日本漢字能力検定協会の本部が京都にあり、日本文化を象徴する場所として国内外に知られているからとされています。赤い舞台と冬の青空を背景に、巨大な一字が書き上がる様子は、ニュース映像としてもインパクトが強く、「今年ももう終わりだな」と実感させる風物詩になりました。観光客や報道陣が集まる、京都の年末を彩る行事のひとつです。
始まりの由来
今年の漢字が始まったのは1995年。初回に選ばれた漢字は「震」でした。この年は阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件など、日本社会を大きく揺るがした出来事が相次ぎ、「震える」「揺れる」という印象が強く残った年です。この一字が選ばれたことで、「漢字一字でその年を象徴できる」というコンセプトが一気に世の中に浸透しました。それ以降も、金融危機や自然災害、政治スキャンダル、スポーツの快挙など、その年の明暗を凝縮した一字が毎年発表され、当時の空気を記録する“年表”のような役割を担うようになっていきます。
歴代の「今年の漢字」
歴代の今年の漢字を一覧で眺めると、日本社会が何に揺さぶられ、何に期待してきたかがよく見えてきます。1990年代後半には「毒」、「末」など不安を映す文字が続き、2000年代に入ると「金」、「愛」、「命」、「偽」など、景気や命の重さ、倫理への関心が交錯します。2010年代には「絆」、「輪」、「税」、「災」など、震災や増税、異常気象が大きなテーマになりました。直近の2020年代前半は「密」、「金」、「戦」、「税」、「金」と続き、感染症や戦争、物価高や汚職問題といったキーワードが強く反映されています。こうした流れを見るだけでも、日本の30年の空気がざっくりと浮かび上がってきます。
直近の漢字とその背景
ごく最近だけを見ても、「今年の漢字」には世相と背景がくっきり表れています。2020年の「密」は、新型コロナの「3密回避」が合言葉になった年。2021年の「金」は東京五輪の金メダルラッシュや新硬貨の発行など「光」と、金銭をめぐる問題という「影」を映しました。2022年の「戦」は、ウクライナ侵攻や物価高との“戦い”など国際・生活両面での緊張感。2023年の「税」は、増税議論や定額減税など税制が大きな注目を浴びた一年を象徴しています。2024年には再び「金」が選ばれ、パリ五輪の活躍と、裏金問題・闇バイト・物価高といった“お金の問題”が複雑に重なった年として記憶されています。
まとめ
「今年の漢字」は、単なる話題作りのイベントではなく、その年の出来事や人々の感情を一字に写し取る、日本独自の「言葉の年末行事」として定着しました。毎年の発表を追っていくと、政治や経済、災害やスポーツの記憶だけでなく、その時々の社会のムードや価値観の変化まで浮かび上がってきます。自分でも一度、「今年の自分の漢字」を考えてみると、案外その年の記憶が鮮明によみがえるかもしれません。